大川小高裁判決は,「災害へ防備」や,「組織の責任」,そして「一人ひとりの命の重み」につき,司法のスタンスを大転換させる歴史的な判決です(長文ご容赦下さい)。
■災害に備える法的な義務を認めた
これまでの津波訴訟の判決は,地震が起きた後の緊急対応の責任を認めるに過ぎませんでした。
いわば「場当たりの対応」の是非を問うだけでした。
しかし,仙台高裁は,真剣な「災害への備え」を正面から要求しました。
裁判で問われる事故の責任は,「直近の過失」ばかりに集中するため,「なぜそうなったのか」に目が向けられず,悲劇が繰り返される温床でした。
この判決を素直に受け止めさえすれば,日本における,防災や事故予防の技術が,飛躍的に高まるはずです。
■組織の責任を直視した
過失責任は「事故を予見していた」ことを前提とします。そのため,個人の責任に目が行きがちです。
刑法の世界だと,組織の責任を問う術さえありません。
日本人の悪弊「トカゲのしっぽ切り」や「個人の袋だたき」も,元を辿ればこうした司法の因習に帰着すると思います。
そのため,一審判決も「その場に居た教師」の責任を問議するにとどまりました。
その結果,犠牲となった教師の御遺族も辛い立場に追い込まれました。
しかし,問題は組織の対応にあることは明らかでした。
仙台高裁は,組織のトップ(校長),組織としての教職員,教育委員会,石巻市という「組織」の責任を直視しました。
社会的にも,常識的にも,理解しやすい論理です。
組織罰を求める社会運動にも適合します。
この論理は,学校だけでなく,従業員の命を預かる会社でも,程度の差はあれど,同じように当てはまります。
組織にとってもはや災害は他人事ではなくなりました。
■一人ひとりの命の重みを感じさせる司法
正直に申し上げると,当初,私は,この判決は予想していませんでした。
期待はしていましたが,裁判所に対する諦念もありました。
でも,結果は,子どものご遺族が感涙し,犠牲となった教師たちの重荷も少し軽くするものとなりました。
一方,「市」という組織にとっては厳しい判決ですが,社会全体が自然災害リスクに真面目に取り組むよう強く促すものとなりました。
当事者にとっても,社会全体にとっても,ポジティブな影響を与える判決です。
私は,司法に対する希望を見直すことができました。
なぜ,そんな結果が導けたのか?
言うまでもなく「一人ひとりの命の重み」を重視したからです。
74人の児童の命が,裁判官に対し,今までの因習から脱し歴史を好転換させるインパクトを与えたことは間違いありません。
すなわち,大川小で犠牲となった方々が,これから起きる将来の大災害から多くの命を救うことになるわけです。
これこそ,憲法76条がすべての裁判官に託した「その良心」の具体化でしょう。
言わずにおれずコメントしました。
私自身も,今回の判決から学びを得て,古い因習を引きずった姿勢を改めたいと思いました。
~~~長文にさらに追加で恐縮です~~~~~
米村滋人先生が,以下の書き込みをされていました。
まったく同感で,先生が「万感の思い」とおっしゃっている点に,私も気持ちが重なりました。
ご了解を得て,以下引用します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
最後の津波訴訟と言ってもよい、大川小学校の津波訴訟で、事前防災に関して学校と市教委の義務違反を認める画期的な判決が出ました。
学校の危機管理マニュアルに津波避難場所に関する具体的な記載がされなかったことが、学校長や担当教員の過失であると認定された上に、石巻市教育委員会も、学校の安全性を確保するための適切な監督を怠った、とされました。
加えて、ハザードマップで学校周辺地域が予想浸水区域になっていなかったこと自体が過誤であり、そのようなハザードマップをもとに、学校敷地に津波が到達しないという想定をしたことも過失にあたる、とされました。
私は、一連の津波訴訟に関連して、防災とは事前の備えが最も重要であり、事前防災の尽くされていないところで震災発生後に適切な避難行動を起こすことは非常に難しい、したがって、法的責任も、震災発生後の突発的判断の適否ではなく、事前防災を尽くしていたかどうかによって判断すべきだ、ということを主張し続けてきました。
震災から7年たって、ようやく、裁判所がその観点に思い至ってくれたということに、万感の思いを禁じ得ません。
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